かなたのいきもの図鑑

私が小学2年生の頃、空前のポケモンブームだった。

 

クラスメイトのほとんどが夢中になり、日々ゲームの進み具合を競っていた。

 

当然、私もその輪の中に入っていたが、

伝説のポケモンの「グラードン」を捕獲するまで

のストーリーで、どうもつまずいてしまった。

 

友達のクロカワ君に攻略法を聞くと

 

「今日、お前ん家行って教えてあげる」

 

と言われ、我が家に招く事になった。

 

 

放課後、早速クロカワ君に手取り足取り教えてもらい、無事グラードンを捕獲できた。

 

喜んでいたのも束の間、クロカワ君が

 

「教えてあげたから、何かお礼ちょうだい」

 

と言ってきた。

 

私は子供心に

 

「図々しい奴だな〜」

 

と思ったが、クロカワ君がいなければ、

一生グラードンに会えなかったと考えれば仕方ない。

 

しかし、我が家にはクロカワ君が喜びそうな物は無かった。

 

お菓子やオモチャも家に無い…。

 

焦った私は冷蔵庫を開け、市販の卵を手に取り、クロカワ君に渡した。

 

「これ、もうすぐでヒヨコが産まれるからあげる。大切に育ててね。」

 

とんでもない賭けに出た。

 

するとクロカワ君は

 

「えっ!!本当に!!めっちゃ嬉しい!!」

 

と目を宝石のようにキラキラさせた。

 

どうやら賭けには勝ったようだ。

 

その後もクロカワ君の興奮状態は収まらず、

市販の卵に耳をつけて、

 

「あっ!今鳴き声が聞こえた!」

 

などの幻聴を聞きながら、彼の家へと帰っていった。

 

 

上手くその場をやり過ごした私だか、

クロカワ君を騙してしまった罪悪感と

 

「市販の卵だとバレてしまうのではないか」

という恐怖心が芽生えてしまった。

 

 

それから毎日、クロカワ君は教室で私に会う度に卵の状況を報告してきた。

 

「昨日は毛布に包んで温めた」

「ヒヨコの名前は何にしようかな〜」

「卵がちょっと動いた気がした!」

 

クロカワ君の楽しそうにしている姿を見ながら

 

「いつ正直に言おうかな〜」

 

と苦笑いをするしかなかった。

 

 

そんな事が1週間程過ぎた時、

 

暗く、泣きそうな表情のクロカワ君が私に話かけてきた。

 

 

「ごめん…。あの卵、俺のお母さんが間違えて

ゆで卵にしちゃった…。」

 

 

不謹慎だが、ホッとしてしまったのは言うまでもない。