お盆の茹だる暑さの中を
蝉時雨をかき分けながら
いつぶりかわからない
あぜ道をひとり踏み締める
40半ばにの出不精な主婦のカラダにはこたえる
好き好んでこんなことをしているのではない
数年ぶりに実家に帰省するためだ
家事や仕事でていっぱいだったが
最近になって子供たちにも目を配る時間が減り余裕ができて来た
本来なら子供たちと夫を引き連れて
機嫌とりといきたかったが
夫と私のスケジュール的に
「プール」か「帰省」の2択に、、、
今頃は3人はプールで大はしゃぎだろう
一方私は汗だくの息絶え絶え
それでもよかった
無味乾燥で色気のない日常から少しでも解放されるなら
家では私が怒る役、夫がアメの役で
最近は子供たちもパパにべったり
私は煙たがられる一方
もちろん夜もご無沙汰
刺激もない、癒しもない、ただただ同じことの繰り返しの毎日
実家に1人で帰れば
家事からも仕事からも離れられる
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数年ぶりの玄関をくぐる
少し残念そうな母
居間の奥で新聞越しにコチラの様子を伺う父
食卓には子供達が大好きな
ハンバーグ
「材料消費しないとだから」
私にハンバーグを出すのは不本意だったと
母のアピール
あまり歓迎ムードではないが
食事が用意されてるだけよしとしよう
手洗いを済ましてから
盆提灯が申し訳程度に置いてある仏壇に手を合わせ
他愛もない会話をしながら
両親と久々の食卓を囲む
退屈ではあったが
いつものような疎外感はなかった
孫の顔を見れずに残念そうな顔をしていた両親も
久々の娘の帰宅に頬を緩め始めていた
食事を終え
いつのまにか沸いていたお風呂にカラダをほぐしてもらった
湯上がりにビールを片手に
頬杖をつきながら
テレビのチャンネルを
ポチポチといじる
年季の入った置き時計が
コクコクと時間を刻む
至福だった
こんなダラダラとした
心地よい時間が流れたのはいつぶりだろう
そのうち瞼が重くなってきたので
布団に潜り惰眠を貪った
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「ごめんくださーーい」
さびれた木造家屋には不相応な
威勢のいい青年の声が私叩き起こした
時計を見るとすでに昼の12時を回っていた
「回覧板でーーーす」
急かすような声色だった
「いまいきまーーーす」
両親の気配はない
多分近所の寄り合いに行っているのであろう
寝癖のついた髪を束ね
最低限の身なりを整え
階段を降り足早に玄関へむかった
まぶしかった
日差しのせいもあるが「彼」の笑顔がだ
屈託のない笑顔で両手で回覧板をコチラに差し出していた
「もしかして娘さんですか?」
何気ない彼の一言だが嬉しく感じてしまった
私に興味を持ってくれてる
それだけで気持ちが高揚してしまった
聞けばその青年は最近コチラに越してきたそう
田舎のスローライフに憧れているようだった
いつの間にか話が弾み
果ては家族の愚痴を漏らしてしまっていた
ひとしきり話し終わって
時計に目をやると
もう午後1時を指そうとしていた
こんなに時間を忘れて誰かと話をしたのはいつぶりだっただろうか
また会いたい…
そう思ってしまった、、、